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水素とCCSが、エネルギー・ロードマップの勝者となる可能性
2nd June 2020
発行日: 2020年6月2日
原典 : CO2CRC
6月1日月曜日のAustralian Financial Reviewの意見記事で、CO2CRCのCEOであるDavid Byers氏とCO2CRCのDistinguished Scientist(科学功労者)であるPeter Cook教授が、水素とCCSがいかにエネルギー・ロードマップの勝者になりうるかについて明らかにしている。
モリソン政権の技術投資ロードマップは、低炭素技術加速化への道として、科学と技術の採用を歓迎している。
その中心にあるメッセージは楽観的なものであり、排出削減と雇用増加を支援する幅広い技術を支持している。
このロードマップは、CCSや 水素など多大なポテンシャルを有する複数の技術 を明らかにしているが、このことは、再生可能エネルギーのみの未来について利点を確信している一部の人々には受けがよくない。
先月、政府は豪州を水素大国とする軌道に乗せるべく、3億ドルの拠出を公約した。排出CO2の回収と地中貯留を行いつつ化石燃料からクリーンな(排出の無い)水素を作るアプローチは、その野心の実現には不可欠なものである。
エネルギーに関する決定は科学と経済をベースとするべきであり、我々は自らのオプションをオープンにしておかなければならない。国家水素戦略の執筆者でありロードマップ参照パネルに新しく任命された議長であるChief Scientist (首相科学顧問)のAlan Finkel氏がこのたびABC Radioに語ったように、 「私はクリーン水素に重点が置かれるべきだと思っているが、クリーン水素の作り方には多くの方法がある。私は常々言っているのだが、[中略]個々の技術ではなく、大気中二酸化炭素の削減に世界の焦点が置かれるべきであると思っている。」
ロードマップも国家水素戦略も、クリーン水素製造に対して技術中立的なアプローチを取っているのは評価すべきことであり、これが成功に至る唯一の実行可能な道なのである。このことは、再生可能エネルギーのみならず、石炭やガスからの水素製造に対してもオープンであることを意味している。
水素は、宇宙で最も豊富な化学元素であり、我々の家庭、輸送、産業の電化に利用することができる。
現在、世界の水素のほぼ全てがガスと石炭から作られている。クリーンな水素は水を水素と酸素に分離するのに再生可能電力を利用して作ることができるが、CCS技術と組み合わせれば石炭とガスからクリーンに製造することが可能である。
回収・貯留技術は、技術的に複雑かつ高価であり、実証されていないので、大規模に運用されることはないと批評する者がいる。だが、これは間違っている。
CCSは実験の段階をはるかに超えており、十分に理解されている技術である。
二酸化炭素は、大規模な産業活動や発電所の排出源で回収することができる。それは高密度の超臨界流体に圧縮され、パイプライン輸送されて地下深い岩層に圧入され、そこで恒久的に貯留される。
グローバルCCSインスティテュートは、1970年代以来、2億6,000万トン以上の人為的二酸化炭素排出が回収され、地中貯留されてきたと報告している。
全世界で(化石燃料から水素を製造する)19件の大規模施設が現在運転中であり、毎年約4,000万トンの二酸化炭素を回収・貯留している。さらに多くの施設が建設ないし計画されている。
その中で最も大きなものに数えられるのが、豪州西オーストラリア州にある Chevron社による世界随一のGorgonガス・プロジェクト であり、2019年8月に二酸化炭素の回収・貯留を開始している。その二酸化炭素圧入施設は、Gorgonの排出量を今後25年強の間に1億トン以上削減することになる。
豪州では、国内の研究組織であるCO2CRCが、ビクトリア州南西部でOtway National Research Facility(オトウェイ国立研究所)を運営しており、そこで10年以上の間、様々な岩層において安全かつ確実に二酸化炭素を貯留し、モニタリングしてきた。
またビクトリア州でも、Hydrogen Energy Supply Chain [水素エネルギー・サプライチェーン:HESC] のパイロット・プロジェクトが、日本への輸出向けにラトローブ・バレー(Latrobe Valley)で褐炭からの水素製造に取り組んでいる。
排出ソリューション
ビクトリア州のCarbonNetプロジェクトは、商業規模HESCプロジェクトに排出ソリューションを提供することを目指している。排出された二酸化炭素は、回収され、パイプラインで輸送され、バス海峡の地下深部に貯留されることになる。
Angus Taylorエネルギー相も、ARENAとCEFCが最大範囲の低炭素技術への投資をサポートし、CCSプロジェクトへの「貸出制限」を変える展望を切り開くべきことに合意している。
国際エネルギー機関(International Energy Agency : IEA)の2018年の調査では、CCSを伴う石炭ないしガス利用による水素製造のコストは、再生可能エネルギーから製造するコストの約半分であることが明らかにされた。
国家戦略における最も強力なシナリオでは、豪州は2050年までに世界の水素需要の20%を満たすことになっている。
豪州には多大な再生可能エネルギーのポテンシャルがある。しかし、公式な豪州のエネルギー・データにもとづくと、我々の計算では、風力と太陽光で水素需要を満たすには、現在の豪州の総発電量の約3倍、現在の再生可能エネルギー生産の30倍が必要になることが示される。
セメント業や石油精製業などの産業は、CCSを自らの排出量を低減し気候変動を緩和する方法と見なしている。
IEAと気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change)による分析では、世界の気温上昇を2℃に制限する最低コストの経路にはCCSが含まれるべきであるという結論が出されている。
豪州には、最新のCCS技術と専門知識へのアクセスが整っている。豪州には、二酸化炭素を貯留するための世界最高の深い堆積盆地のいくつかと、国際的に認められた資源産業が存在する。
水素は長年の間、クリーン・エネルギー・ソリューションとしてそのポテンシャルがもてはやされてきた。しかし、技術中立的なアプローチのみが理にかなっている。再生可能エネルギーのみを追求する経路は、水素をー常に「次の大物」というー過去30年間の立ち位置に押し留めてしまう危険性がある。