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2035年までの欧州CCS支出は350億ドルに上り、大半の施設が英国に
10th September 2020
発行日: 2020年9月10日
原典 : Saudi Gazette
この20年は、CCS研究と試験センターにとって、長く、そして費用のかかる年月であった。今や、欧州は、大規模開発が資金的に合理的となる段階に到達し、欧州大陸で年間7,500万トンものCO2が回収・貯留される可能性のある2035年までに、最高350億ドルの開発支出が引き出される可能性があるということが、 Rystad Energy社の分析により示されている。
計画中にあり、2035年までに稼働する可能性が高い大規模CCSプロジェクトは、欧州だけで10件ほど存在する。その多くは、ノルウェー、英国、デンマーク、オランダの北海周辺に位置しているが、アイルランドとイタリアにも構想段階のプロジェクトが存在する。
これらのプロジェクトの大半は2020年代半ばから稼働すると見込まれているが、多くのプロジェクトが開発に3年から5年を要することから、サプライヤーに与えられる投資や契約は、2021年–2023年から早くも大幅に増え始めるだろう。これらのプロジェクトでは、2035年までの操業支出合計50億ドルに加え、総設備投資額が300億ドルに達すると見込まれる
この資本支出の半額は排出源の施設で費やされ、CO2回収設備や施設の建設がその大半を占めるであろう。貯留に関する投資は15%を占め、その内容は主に地下貯留層への安全なCO2貯留のための井戸関連サービスである。輸送・操業が35%を占め、幹線、船舶輸送、インフラ保修コスト関連である。
最初に稼働する予定の3件のプロジェクトは、Acorn CCS、Northern Lights、Porthosであり、CCSの全体的な不確実性のリスクを低減することで、画期的なものとなるだろう。数もサイズも2倍以上のプロジェクトが、これに続く可能性がある。
欧州でこれまで計画されてきたプロジェクトにより、2021年から2025年までに毎年年間300万トンのCO2回収貯留容量が追加され、次の5年間である2026年から2030年には年間700万トンに跳ね上がることが期待される。2035年までに、総設備容量は年間約7,500万トンとなり、そのうち約80%が英国のプロジェクトによるものとなる。
現在、欧州には稼働中の完全なフルスケールCO2プロジェクトはわずか2件しかない。それはノルウェーの沖合Sleipner油田とSnohvit油田にあるCO2圧入プロジェクトであり、合計CO2回収貯留容量は年間約150万トンである。
より視野を広げて見ると、欧州には、セメント工場、製鋼メーカー、化石燃料発電所や廃棄物エネルギー化プラントなど、約1,000件の大型産業サイトがあり、これらは全てCO2回収プロジェクトの候補となりうる。このうち約250件は、北海での貯留を目的としてCO2を運ぶのに合理的な輸送距離にある。
全世界には、CO2回収にふさわしい産業施設がおよそ6,000件存在する可能性がある。CCS技術を利用することが見込まれるのはこれらのサイトのうちほんのわずかだが、その数字は今後数十年で世界のCO2排出量を引き下げるための投資を増やすことに対してポテンシャルが膨大にあることを示しており、そのことは、現在石油・ガス業界から仕事の大半を得ている請負業社に、新たなチャンスをもたらす可能性がある。
OCTG (Oil-Country Tubular Goods)のサプライヤーにとっての機会
「CCSプロジェクトの開発は、石油・ガス以外にも展開することを狙っているサプライヤーにとっての新市場が開かれそうであることから、ラインパイプや油井管(OCTG; Oil-Country Tubular Goods)業界にとってもチャンスである」と、Rystad Energy社のエネルギー・サービス研究担当上級副社長であるJames Ley氏が語った。
Rystad Energy社の推計では、たとえば、Equinor社、Shell社、Total社によるノルウェーのNorthern Lights CO2貯留プロジェクトには輸送用ライン用におよそ12,000 トンの炭素鋼シームレス・ラインパイプが必要であり、これだけの量を調達する入札がもうすぐ開始されることになりそうである。地下設備については、Saipem社、Technip FMC社、Subsea 7社がいずれもこの役務巡って争っており、Saipem社とSubsea 7社がこの戦いにおいてリードしていると我々は考えている。
OCTGの点からは、Northern Lightsプロジェクトは2020年3月に掘削された試験井の後、第1フェーズにおいてたった一つしか井戸の掘削が求められていないことから、このプロジェクトに対する当初の要求は少なそうである。この圧入井には、OCTGチューブについて高クロムのグレードが要求されると見込まれている。Northern Lightsのフェーズ1のコストは7億6,000万ドルで、契約の56%はノルウェーのサプライヤーに支払われると見込まれている。
欧州の複数の政策立案者や非政府組織ら(NGOs) は、かつて、CCSは実証された利用可能な技術ではなく、非現実的な期待をかけられているとして、この技術を気候緩和手段から排除するつもりであることを示唆していた。 それゆえ、CCSの未来が大きく開かれるためには、Northern Lights及びAcorn両プロジェクトがそのパイロット・ステージを完遂し、これが実証された技術たりうることを示すことが重要である、とRystad Energy社のHead of Energy Service Research(エネルギー・サービス研究責任者)であるAudun Martinsen氏は述べている。
「太陽光設備や沖合風力発電所など、欧州である程度成熟している標準的な再生可能技術が、徐々に市場シェアを伸ばしている中、CCSプロジェクトは競争に直面し、価格相当の価値があることを示さなくてはならないだろう」と、Martinsen氏は語った。