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インサイト:2025年ニューヨーク気候週間(New York Climate Week) | CCSによる電力部門の脱炭素化:AI成長に伴う需要への対応
22nd October 2025
発行日:2025年10月22日
2025年9月23日、グローバルCCSインスティテュート及び米国電力研究所(EPRI)は、2025年ニューヨーク気候週間(2025 New York Climate Week)にて「CCSによる電力部門の脱炭素化:AI成長に伴う需要への対応(Decarbonizing the Power Sector with CCS: Meeting the Demands of AI Growth)」に焦点を当てたサイドイベントを開催しました。米国マンハッタン事務所にて200名を超える当インスティテュートのメンバー及びゲストを温かくお迎えくださったLatham & Watkins社には、心より感謝申し上げます。
CCSは、脱炭素化された電力を大規模に供給するための不可欠で証明済みのソリューションであり続けています。データセンターが予測される電力需要を牽引する中で、安定電力への依存は譲れないものであり、理想的には低炭素でもあるべきです。CCS付設型天然ガス発電所は、企業が気候コミットメントを達成するために必要な信頼性の高い低炭素電力を確保するにあたって、重要な役割を果たすことができます。
勢いを見せる世界市場
CCSは、政策上の概念から運用可能で商業的に担保可能な資産へと移行しつつあります。パネル「世界市場の動向とCCS(Global Market Developments and CCS)」の中では、登壇者達が世界的な進展の主要事例をいくつか紹介しました。欧州のNorthern Lightsプロジェクトは、初の国境を越えたCO2圧入を達成し、物理的な節目を刻みました。また、2028年までに年間900万トンのCO2貯留を目指しており、世界的なエネルギー及び技術会社のコンソーシアムに支援されているサウジアラビアのジュバイル(Jubail)CCSハブは、CCSの融資適格性に対する信用の高まりを示しています。
ハイレベルにおける状況については、次の点がパネルによって指摘されました。
- 欧州では政策が充実しており、EU排出量取引制度(EU Emissions Trading System:ETS)が投資可能な環境を整えているが、プロジェクトが最終投資決定(FID)に至るまでの支援において、依然としてコスト差に直面している。米国は、45Q税控除を通じて最も強力な財政的インセンティブの1つを有しており、これは最近署名された「一つの大きく美しい法案(One Big Beautiful Bill Act:OBBBA)」の下で維持され、国内投資の促進に役立っている。しかし、専用地中貯留の展開は、クラスVI坑井許可手続きの速度によって制約を受けている。
- 日本が主導するアジアは、国境を越えたCCSモデルに先駆的に取り組んでおり、国家間でCO2を船舶輸送する一方、中国は、国家指令とパイプライン・ネットワークを通じて数メガトン規模プロジェクトを急速に拡大している。
避けられないAI:スピード、費用、炭素
AIブームの担い手であるハイパースケールのテック企業は、低炭素な安定電力に対する最も差し迫った新規需要を作り出しています。ファイヤーサイド・チャット(Fireside Chat)では、米国データセンターの電力消費量が増加し、国家需要の1.5%から最大4%まで上昇すると予測されており、それらの企業はスピード、費用等をそれぞれ優先せざるを得ない状況に追い込まれていること等、様々な話題について議論が交わされました。
天然ガス発電所と組み合わせたCCSは、信頼性と大幅な脱炭素化(回収率90~95%)の可能性の双方を兼ね備えていることから、それらの企業のニーズにとって理想的な解決策です。しかし、パネリストは、CCSと天然ガス発電所の主な課題は根本的なタイミングの不一致にあり、AIに駆り立てられた発電所建設の緊急性は、CCSの複数年にわたる規制とインフラ整備のタイムラインと真っ向から対立すると述べました。開発業者は、回収部分をより迅速なタイムラインで開発する方法やモジュール化、拡張可能な設計について議論しました。しかし、貯留能力が先に整備されていなければならず、さもなければ「貯留地なし=プロジェクトなし」となってしまいます。従って、CCS貯留地の供給業者は、安全かつ恒久的な地中貯留のために貯留資源の特性評価を行うと共に、地下の間隙に対する法的権利を確保することが必要となります。
インフラのボトルネック及び政策上の逆風
加えて、タービン、変圧器、その他の大型機器の遅延等、サプライチェーン上の課題並びに熟練労働者の不足も、CCSの拡大に向けた進展を脅かし得るもう1つのボトルネックを生み出す可能性があります。
議論された提言には、以下のようなものが含まれます。
許可手続きの効率化と共に、米国EPAの能力強化に向けた官民連携を呼び掛ける開かれた対話。州がクラスVIプライマシーを申請し、取得することも、許可プロセスの加速化に寄与し得る。
物価調整済み税控除の財政的安定性及び政治的不確実性に対処するための長期的な政策の明確化を提唱。
新規発電所の建設、特にAI需要に対応するためのガス火力タービンで、当初から「回収対応型」ないし回収統合型として設計される予定のものついては、早期計画する。
結論として、CCSの成功は、インフラの停滞を打破できるかにかかっています。エネルギー転換はオン/オフできるスイッチではなく、段階的で協調的な道のりです。電力部門がAIによって生み出された「ギガワット・モーメント」への対応に成功するためには、回収から輸送、貯留に至るCCSバリューチェーン全体の連携が、今こそ調整され、商業化された現実にならなければなりません。CCSを伴う天然ガスは、再生可能エネルギー、原子力及び地熱を含む包括的なクリーン技術ポートフォリオの一部となる必要があるのです。