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インサイト&コメンタリー: 2025年CCSに関する欧州フォーラム:総括

13th May 2025

トピック: Institute News

発行日:2025年5月13日

原典:グローバルCCSインスティテュート

 

2025年3月19日、グローバルCCSインスティテュートは、年次欧州CCSフォーラム(Europe Forum on Carbon Capture and Storage)をベルギー・ブリュッセルにて開催しました。

同イベントには、政策立案者、NGO、産業リーダー、学者、金融専門家、一般市民等、CCSバリューチェーン全体から約300名の利害関係者が参加し、同地域におけるCCSの動向を学ぶと共に、主要な課題や機会について検討しました。

 

欧州及び世界におけるCCSの進展:CCSに対する野心から実際のプロジェクト開発へ

 

インスティテュートのCCS技術担当主任(Principal - CCS Technologies)であるDavid Kearnsは、出席者を歓迎すると共に、ここ数年間インスティテュートが見て来たCCSの進捗、動向及び課題の概要を紹介しました。CCS開発は、様々な国・地域における、新しくて強化された政策支援の出現によって支えられ、世界的に引き続き強い成長を見せています。

インスティテュートは2025年2月時点で、世界で操業中の施設を65か所確認しており、それらは約57MtpaのCO2回収能力を持っています。加えて、42か所の施設が現在建設中です。これらのプロジェクトが完成すれば、44MtpaのCO2が追加的に回収できるようになり、世界の累積回収能力は100Mtpaを超えることになります。CCSはまた、欧州でも非常に有望であり、現在9か所の施設が操業中であり、13か所が建設中です。

こうした好ましい動向は、CCSがまだ定着していない部門も含め、同技術が今後も成長し続けるという確信を後押ししています。

CCSの展望は良好である一方、現在CCSの進展を妨げている主要な課題は、困難な投資環境、地域社会の懸念及び規制の障壁です。

 

欧州におけるCCSの現状と将来展望:欧州の政策展開がプロジェクト実施の成功にどのように貢献できるか

 

幅広い支援的な政策、法的及び規制的な枠組並びに資金調達方法の策定及び実施の結果、CCSは、EUや国家レベルにおける主要な議論の中心にあり続けています。特に、CCSは、持続可能性目標と欧州の製造業における競争力を維持する必要性を両立できる重要な気候ソリューションとして台頭しています。

欧州委員会の土地経済学・CDRユニット長(Head of Unit for Land Economy and Carbon Removals)であるChristian Holzleitner氏は、EUレベルで統合されたCO2市場の創設に向けた極めて重要な対策が既に講じられており、それにはEU産業カーボンマネジメント(EU Industrial Carbon Management:ICM)戦略や、より最近ではクリーン産業ディール(Clean Industrial Deal:CID)の発表、さらにはネットゼロ産業法(Net-Zero Industry Act:NZIA)や炭素除去・カーボンファーミング(Carbon Removals and Carbon Farming:CRCF)規制の発効が含まれることを強調しました。

今後24か月間は、同地域のカーボンマネジメントの未来にとって非常に重要となるでしょう。ゼロ・エミッション・プラットフォーム(Zero Emission Platform:ZEP)の会長(Chair)であるEve Tamme氏は、Northern LightsやPorthosといった他に類を見ないいくつかのCCSプロジェクトが、この期間に操業を開始する見込みであることを指摘しました。これらの成功は、CCSの実現可能性を実証し、より幅広い人々に同技術の不可欠な脱炭素化の役割を伝えられる貴重な機会となるでしょう。

産業脱炭素化アクセラレーター法(Industrial Decarbonisation Accelerator Act)、EU排出量取引制度(EU Emissions Trading System:ETS)の見直し及びCO2輸送インフラのEU規制パッケージの策定によって、CCSの重要な進展が期待されています。

当初2024年2月にEU ICM戦略(EU ICM Strategy)の一環として発表された前出の規制パッケージは、欧州で現在具体化しつつある、いくつかの国境を越えたCCSイニシアティブの策定を促進するために必要な、CO2輸送に関する共通で調和の取れたアプローチの構築を助けることになります。

Heidelberg Material社の広報担当責任者(Head of Public Affairs)であるFredericq Peigneux氏によると、規制的枠組は産業プレーヤーが最終投資決定(Final Investment Decisions:FIDs)に到達するための条件を整えるべきであるといいます。この結果は、資金調達をより容易にすると共に、回収されたCO2を輸送し、貯留するためのインフラが整備されるという確実性を排出者に提示することで達成できます。

Holzleitner氏は、欧州におけるカーボンマネジメントを拡大するためには、ETSにおいてCCS、CDR及びCCUのための適切なインセンティブを創出すると共に、炭素差額決済に資金提供する必要が出てくるだろうと述べました。

 

現行のETS価格が不十分である結果、欧州におけるCCS開発は、公的資源を活用する必要がありますが、その利用可能性には限りがあるため、事業を脱炭素化するための様々なオプションがない部門や産業に割り当てる必要がある、とデンマークのシンクタンクCONCITOのシニア・アナリスト(Senior Analyst)であるTobias Johan Sørensen氏は明言しました。

 

CCS融資及びリスク軽減:CCSプロジェクトをどのように融資可能にするか

 

支援政策と並んで、プロジェクト融資はCCSへの投資を促進し、より多くのプロジェクトがFIDに至るのを助けるもう一つの重要な要素です。他に類を見ないCCSイニシアティブを推進し、プロジェクトを投資可能なものにするためには、官民双方による融資が不可欠です。

CCSプロジェクトには通常、バリューチェーン全体から複数の利害関係者が関与しているため、リスク分配が困難な作業となります。これらのプロジェクトは、新たなインフラと新たな産業の双方を同時に構築する必要があるため、リスクの軽減は、個々のプロジェクトにとどまらず、より広範なエコシステムにまで拡大する必要がある、とSantander社のストラクチャード・ファイナンス担当常務取締役(Executive Director of Structured Finance)であるUrbano Troncoso氏は指摘しました。

Troncoso氏はまた、プロジェクト融資がいかに予測可能性と密接に結び付いているかを説明しました。このような状況において、政府は、バリューチェーン全体の仲介役として極めて重要な役割を果たすことができ、適切なリスク分配とプロジェクト融資を可能にします。

英国は、CCSのビジネスケースを構築するために重要な対策を講じてきており、輸送及び貯留ネットワークの共同利用を通じて脱炭素化を図る産業クラスターを特定しています。

英国政府の資金調達・戦略担当責任者(Head of Funding and Strategy)であるMichael Brown氏は、英国のCCSの歩みを概説し、異なる部門やCCSバリューチェーンの構成部分に合わせた専用のビジネス・モデルを作成した根拠を説明しました。このモジュール式システムは、CCSのための実行可能な投資枠組の確立に役立ち、その結果、英国政府は2024年10月、HyNetクラスター及び英国東海岸クラスター(East Coast Cluster)におけるCO2回収及びCCUS対応水素プロジェクトに最大217億ポンドを拠出することが可能となりました。

オランダもまた、2018年にSDE++資金提供スキームにCCSを含めることで、重要なCCS活動の実施を促進しています。このスキームは、FIDに向けてCCSバリューチェーンの異なる構成部分を同時に開発することを可能にし、CCSプロジェクトのリスクを軽減するように設計されています。

各国政府は、いくつかのリスクを軽減するために介入し、費用の一部を負担することができますが、プロジェクトが融資を受けられるようになるには、まだ残っているいくつかの技術的なリスクを引き受けなければなりません。

Société Générale社の常務取締役(Managing Director)であるAndrew Lee氏によると、CCSプロジェクトは、利用可能な支援メカニズムの枠組内で、適切な構造と理論的根拠に従えば、融資を受けて建設することができるといいます。

 

欧州全域におけるCO2貯留能力の開発:CO2貯留プロジェクトを推進する上での課題と機会

 

欧州ではここ数年、計画されているプロジェクトのCO2回収能力と同地域で開発されている貯留能力のギャップを埋める目的で、貯留地開発に関する活動が増加しています。

効果的で耐久性のある政策及び規制の策定は、CO2貯留プロジェクトの推進を可能にする不可欠なステップです。

NZIAは、EUレベルにおける極めて重要な規制であり、EUで2030年までに50Mtpaの圧入能力を達成するという目標を掲げることで、EU全体のCO2貯留地開発を推進することが期待されています。

このような目標は、気候中立に向けた小さなステップであり、野心的ではあるものの、現在利用できるオプションで達成が可能な目標を設定している、とクリーンエア・タスクフォース(Clean Air Task Force)の欧州CO2回収技術・市場担当ダイレクター(Technology and Markets Director, Carbon Capture Europe)であるToby Lockwood氏は述べました。

欧州各国もまた、それぞれCCSのための国家規制枠組の整備に向けて措置を講じているか、取り組んでいます。

CO2貯留地開発を主導し、同地域における将来のCCSハブとしての位置付けを目指しているEU諸国の1つはデンマークです。そのため、デンマークは、同国におけるCO2貯留を可能にするために必要な枠組を整備しています。デンマーク・エネルギー庁(Danish Energy Agency)のチーム・リード(Team Lead)であるJesper Brandrup氏は、CO2貯留地開発に対する関心を、CCS基金(CCS Fund)を通じてどのように促進しているか、また、陸上・沖合の双方における、いくつかのCO2貯留探査ライセンスの付与につながったプロセスを説明しました。

ノルウェー産業科学技術研究所(SINTEF)の研究部長(Research Manager)であるAne Elisabet Lothe氏によると、同地域には十分なCO2貯留可能性があるといいます。

欧州でこれまでに開発されてきた貯留能力の大半は、北海周辺に集中していますが、新しい貯留機会が、イタリア、ギリシャ、ブルガリア、ルーマニアといった国々で出現しつつあり、貯留能力の地域格差への対処に役立っています。

HEREMA社の地球科学部長(Head of Geoscience)であるEfthimios Tartaras氏の指摘によると、ギリシャはCCSに適用する本格的な規制的枠組を整備するプロセスにあり、プリノス(Prinos)サイトの枯渇しつつある油田やガス田をCO₂貯留施設に転換することを検討しているといいます。ギリシャの貯留可能性は、北海に面する他のアクターに比べて限られていますが、自国の国境外やEU圏外における機会にも目を向けています。今年初め、ギリシャは、CCS分野における協力を強化するため、エジプトと覚書(MoU)を締結しました。

パネリストは、適切な政策や規制的枠組を整備することと並んで、官民パートナーシップを確立する重要性も認めました。後者は、欧州経済領域(EEA)の域外での越境CO2輸送を巡る規制上の障壁に対処し、プロジェクトがファイナンシャル・クローズに達するのを妨げているクロスチェーン・リスクに取り組むのに役立つ可能性があります。

 

分科会:出席者との対話から得られた主な洞察

 

イベントの議題の一部として、インスティテュートは5つの分科会を開催し、パートナー組織の助けを得て、欧州のCCSコミュニティで現在進行中の議論について、出席者の見解や考えに耳を傾けました。特に、陸上貯留、CO2輸送、CCS融資、CDR及びカーボンマネジメント・チャレンジ(Carbon Management Challenge:CMC)に関する問題について、出席者と実りある対話を行いました。

インスティテュート、DNV、CCSA及びIEAGHGからの各分科会ファシリテーターは、それぞれの分科会で行われた議論のハイレベルな総括を提示し、出席者との対話から浮かび上がった洞察のいくつかを紹介しました。

分科会での対話は、様々なトピックを掘り下げながら、以下の点に触れました。

 

  • 気候目標を達成するための世界的な協力と知識共有の重要性、及びカーボンマネジメント・チャレンジ(CMC)の一環として利害関係者メカニズムの立ち上げ。そのメカニズムを通じて、利害関係者はCMCの枠組に関与し、参加する機会を得られる。
    • 欧州の先駆者による陸上CO2貯留から学んだ教訓、並びに欧州における陸上CO2貯留プロジェクト開発の利点と課題
    • CDR活動の需要とインセンティブ、並びにCDRの将来的なEU ETSへの組み込みの可能性
    • CCSプロジェクト及びバリューチェーン費用を最適化し、CCS展開のために十分なビジネス・モデルを支援するのに役立つアプローチ
    • 欧州のCO2輸送を利用できるようにするためのCO2基準、国境を越えた協力及び資金調達戦略

 

結論

 

盛りだくさんの議題と過去最高の出席率だったインスティテュートの2025年欧州フォーラムは、今回もまた、欧州におけるCCSの現在の動向と将来の見通しについて関係者間で有意義な対話を促進する重要なプラットフォームを、同地域のCCSコミュニティに提供しました。

講演者や参加者の積極的な関与によって、CCSに関する欧州フォーラムは、同分野の専門家との交流を促進し、パートナーシップや新しい協力形態を構築する機会を提供することができました。

世界的な協力は、CCSバリューチェーンを必要な速さと規模で推進していくための鍵であるため、インスティテュートは今後も、CCS展開を加速するために、欧州内外のCCSコミュニティと共に取り組んで行きたいと考えています。

 

 

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