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インサイト&コメンタリー: 2024年欧州CCSフォーラム(Europe Forum on Carbon Capture and Storage):概括

31st May 2024

トピック: Institute News

発行日:2024年5月31日

原典:グローバルCCSインスティテュート

 

2024年4月17日、グローバルCCSインスティテュートは、オランダ及び欧州で最大級の脱炭素化プロジェクトであるPorthos CCSプロジェクトが去年末、最終投資決定(FID)に至り、建設段階に入ったばかりのオランダ・ロッテルダムにて、年次欧州CCSフォーラム(Europe Forum on Carbon Capture and Storage)を開催しました。

 

250名以上が参加した同イベントでは、各国政府、欧州委員会、NGO、産業界、シンクタンク、学界、金融部門、一般市民等、幅広いCCS利害関係者が一堂に会し、欧州におけるCCUSの現況を共有しました。

 

今年のフォーラムでは、欧州におけるCCSプロジェクト開発、同技術の規模拡大を支援する政策メカニズム、CCSのビジネス・モデル及び欧州におけるCO2除去(CDR)技術の進展について、洞察に満ちた発表、対話及びパネル・ディスカッションが行われました。

 

欧州及び世界におけるCCSの現状

 

一日を通して予定されている様々なディスカッションの場の設定のため、インスティテュートのCEOであるJarad Danielが登壇し、参加者を歓迎すると共に、欧州及び世界におけるCCSの展開の概況について説明しました。

 

Danielsは、強力な政策や資金的インセンティブに後押しされ、CCSに対する関心やCCSに関連した活動が世界中で飛躍的に増大していると言及しました。インスティテュートは現在、欧州において様々な開発段階にある150か所以上のCCS施設を追跡調査しています。

 

この良好な傾向は今後も続くことが見込まれている一方で、もし我々が気候中立という共通の野心的な目標を達成する軌道に留まりたいならば、世界におけるCCSの展開は、2030年までにギガトン規模、また、2050年までに数ギガトンまで拡大する必要があります。

 

 

欧州内外の支援的なCCS政策及び気候戦略

 

欧州内外の様々な国は、CCS展開を加速させるために種々の手段やアプローチを講じています。

 

英国エネルギー安全保障・ネットゼロ省(Department of Energy Security and Net Zero)の輸送・貯留担当副局長(Deputy Director for Transport and Storage)であるMatthew Taylor氏は、バリューチェーン全体に様々なCCSのリスクを配分するために英国で策定された、徹底的な立法プロセスに裏打ちされた業界特有のビジネス・モデルについて話しました。同国初のCCSプロジェクト群は、年内にFIDに達する可能性があります。新しい英国CCUSビジョンが2023年末に発表され、同国政府は、2030年以降も炭素ビジネス・モデルを作成し続ける目標を打ち出しています。

 

CCSの機運は世界的に高まっていることから、英国や他の欧州諸国は、欧州外の地域でCCS展開を進める上で効果が証明された他のアプローチから学ぶ機会があるとのことです。

 

米国エネルギー省(US Department of Energy)化石エネルギー・カーボンマネジメント局(Office of Fossil Energy and Carbon Management)の管理及びプログラム・アナリスト(Management & Program Analyst)であるMatt Antes氏は、バリューチェーンの全ての構成部分におけるCCSの展開、その様々な適用、及びCCUSプロジェクトの様々な段階を後押しすることを意図した米国超党派インフラ法(Bipartisan Infrastructure Law:BIL)及び米国インフレ抑制法(Inflation Reduction Act:IRA)を用いて、米国がどのように資金的インセンティブや揺るぎない規制枠組を導入したかを説明しました。米国のアプローチはまた、プロジェクト開発の初期段階において、強力な地域社会の関与及び情報提供を保証しており、それには地域社会がプロジェクトから期待できる経済的利益も含まれます。CCSの機運は高まっているものの、我々の野心的な気候目標を達成可能にしておくためには、更に多くの対策を講じる必要があります。

 

IEAのCarl Greenfield氏によると、我々は、より多くのCCSプロジェクトを実現させ、発表段階からFIDに移行し、最終的に、できる限り早期に操業に至ることが必要であるといいます。プロジェクトの準備期間の短縮もまた、気候緩和ソリューションとしてCCSの可能性を引き出すために極めて重要となるでしょう。加えて、排出削減が困難な産業におけるCO2回収に焦点を置いたより多くのCCSプロジェクト及びCO2除去も必要です。

 

Holcim社のPavan Chilukuri氏は、同社が現在、欧州20か国に広がる35か所以上のセメント工場で、セメント業界におけるCCS開発を行っており、各CCSプロジェクトは、異なる輸送手段やCO2貯留地までの輸送距離の差等、独自の状況に直面することになるでしょうと述べました。

 

公平で合理的な商業条件に基づいて利用可能な、CO2輸送及び貯留のための共有インフラの開発は、同地域におけるCCSの幅広い展開を可能にするために極めて重要な要素です。Chilukuri氏は、西欧及び東欧を脱炭素化させ、欧州全体の公正なエネルギー移行を保証するためには、沖合と陸上の双方の貯留サイトを利用可能にすべきであることを強調しました。

 

加えて、講演者達は、プロジェクト・レベルにおけるバリューチェーンの様々な当事者間だけでなく、国レベル、すなわち輸送及び貯留インフラを開放するための国家間における協力も重要であることを指摘しました。

 

CCSを巡る国境を越えた協力は、ノルウェー等の国々にとって重要な焦点となっています。ノルウェー政府エネルギー省(Ministry of Energy)のAne Gjengeda氏は、ここ数年において同国が様々な新しいタイプの覚書(MoU)や二国間協定を締結し、CO2の越境輸送を可能にするために必要な規制枠組や条件を設定して来たことを指摘しました。

 

政府間協力のもう1つの例は、1.5℃目標の達成にはカーボンマネジメントが不可欠であることを認め、CCSを必要な規模で開発するために行動する意欲を持つ21か国及び欧州委員会が参加する、国際イニシアティブ「カーボンマネジメント・チャレンジ(Carbon Management Challenge)」です。

 

 

オランダの経験からの観点

 

オランダは、欧州におけるCCSの前進を主導している国の1つです。オランダ経済気候省(Dutch Ministry of Economic Affairs and Climate)の気候・エネルギー担当長官(Director-General for Climate and Energy)であるMichel Heijdra博士は、開会の基調講演を行い、オランダの観点からのCCSに関する洞察や、同国でCCSを展開する上で得た教訓を共有しました。

 

Heijdra博士は、オランダが海や北西欧州地域の他の国々に地理的に近いことと、枯渇したガス田の存在並びにガスの輸送及び貯留に関する経験が豊富な石油・ガス会社があることの組み合わせが、オランダでCCSの可能性を探り始めるのに適した条件を作り出したことを強調しました。

 

Heijdra博士はさらに、オランダがCCSを進める上で役立った主なツール及び手段について概説し、同国が企業間取引アプローチに従って必要な法的枠組と市場規制をどのように導入したかについても取り上げました。CCSの補助金は、CCSと他の技術の間の公平な競争条件を確保するため、競争的要素を含む差金決済取引(Contract for Difference)スキームを通して提供されました。加えて、オランダ政府は、プロジェクトにフル・バリューチェーン・アプローチを採用し、全ての主要当事者をまとめ、ライセンスの調整及び最終的な貯留の管理において強力な役割を果たしました。

 

オランダがここ10年間で得たCCSに関する経験及び知識を通して、Heijdra氏は、同技術の展開を成功させるにあたって一般市民の支持が重要であることを強調しました。また、バリューチェーンの各部分にビジネス・ケースが必要であることも、もう1つの重要な教訓です。

 

 

CCSプロジェクト開発:輸送及び貯留努力に関する洞察

 

毎週のように新規プロジェクトが発表される中、我々は欧州におけるカーボンマネジメントの進展において非常に重要な時期に立ち会っています。

 

オランダでは、Porthosプロジェクトが現在、ロッテルダム港でCO2の輸送・貯留ネットワークを開発しているなど、胸を躍らせるようなCCS開発が進められており、同国及び欧州全体における将来のCCSプロジェクトへの道を拓いています。

 

Porthos のDorus Bakker氏によると、同プロジェクトは2017年、パリ協定(Paris Agreement)及びオランダが設定した気候目標を遵守しながら、ロッテルダムの産業クラスターを脱炭素化し、同地区で確立された地場産業を維持するための1つのアイディアとして始まりました。2017年の発表から最近開始された建設段階までの間、同プロジェクトは、CCSのふさわしいビジネス・ケースや専用の法的枠組がないことに関連するいくつかの課題を克服してこなければなりませんでした。

 

英国北海移行局(North Sea Transition Authority)のNick Richardson氏も、CCSプロジェクトの実現に必要となる長い期間に関する見解に同意しました。英国もまた、CCSの展開を必要とする野心的な気候目標を設定しており、現時点で最大数のCO2貯留ライセンスを発行している欧州の国です。

 

Richardson氏は特に、同国の気候目標を達成するために貯留されるCO2量と、計画されているプロジェクトが提供する貯留能力のギャップを埋めるために、ポートフォリオにより多くのライセンスを追加するという英国政府の決定について語りました。その結果、同国は現在、英国沖合地区全体で28件のライセンスを数えることができます。2030年及び2050年の目標を達成するために可能な限り多くのプロジェクトを実現させるため、潜在的な問題が起こる前にそれを予測し、軽減対策を講じておくことが不可欠であることをRichardson氏は付け加えました。

 

CCSの機運はまた、アジア太平洋(APAC)地域等、世界の他の地域でも高まっています。独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の西岡さくら氏は、日本のCCSバリューチェーンを促進し、同国全体に低炭素産業を発展させるためのCO2ネットワークを構築するため、同国では7件の実証プロジェクトが選定されたと述べました。西岡氏は、日本のようなAPAC地域の国々も、CO2漏洩の責任、仕様、算定方法論等、規制枠組の様々な側面を調和させるために、(欧州で締結されたものと同様の)二国間及び多国間協力形態を確立することで便益を得るだろうと述べています。

 

APAC地域はまた、生産の約4分の3が依然として高炉によるものであり、CO2を排出している鉄鋼産業の主要な生産地域を代表しています。世界鉄鋼協会(World Steel)のAndrew Purvis氏は、鉄鋼部門の脱炭素化には短期、中期、長期で様々なオプションがあり、CCSがそのミックスの一部になることを認めました。

 

高炉の利用は、欧州では早期に減少することが見込まれていますが、中国、インド、東南アジアにはまだ新しい高炉があり、近い将来も操業を継続する可能性が高いため、それに関連するCO2排出量を緩和するためにはCCSが必要となります。

 

鉄鋼産業は、事業をCCSで脱炭素化するために、貯留インフラの開発に極めて重要な役割の果たす石油・ガス部門等、これまで関与してこなかった利害関係者と協力する必要があります。

 

プロジェクトの実施には困難が伴うこともありますが、講演者達は、必要なインフラが整備され、カーボン・プライシングを含む適切な政策や資金的インセンティブが利用可能になれば、プロジェクトの展開をより早めることが可能であると強調しました。プロジェクト実施中は、コンソーシアムのパートナー間で役割と責任の所在を明確に割り当てることや、互いの強みを活かすことも、プロジェクトの展開を加速させるために重要です。

 

 

政策を通じて産業によるCDRの採用を可能にする方法

 

CDRは将来、残余排出量を相殺するために必要となるツールの1つです。

 

CCS+に参加しているSouth Pole社のシニア・マネージング・コンサルタント(Senior Managing Consultant)であるOscar Rueda氏は、CO2除去(Carbon Dioxide Removals:CDR)について掘り下げ、どのように政策で技術ベースのCDRの責任ある採用を可能にし、市場の規模を拡大するかを説明しました。

 

Rueda氏によると、次の3つの主要原則に従うことで、責任をもってCO2除去を展開させることができるといいます。

 

  • 排出削減に代わるものはないため、除去よりも優先されるべきである。
  • しかし、CDRなくして我々の共通の気候目標を達成することは不可能であることから、CDR技術の時宜を得た展開を保証するために、積極的に計画を立て、多様なCDRのポートフォリオを構築する必要が出てくる。
  • 最後に、CDRの展開を進めるために取られた手段が最高の品質と環境保全に適合していることを、その過程で保証する必要がある。

 

欧州連合の気候目標におけるCCSの役割

 

CCS及びCDRのようなカーボンマネジメント技術は、EUの野心的な気候目標の達成に役立ちます。

 

EU気候行動総局(DG CLIMA)のWopke Hoekstra委員の閣僚であるDaniel Mes氏は、閉会の基調講演にて、欧州連合においてCCSが果たすことが期待されている役割や、欧州における同技術の広範囲に及ぶ開発を促進することが期待されている最新の政策展開を概説しました。

 

貯留サイト第1号の開設や、企業間のCO2輸送に関する最初の契約の締結によって特徴付けられた、欧州におけるCCSを巡る前向きな機運の結果として、欧州委員会は最近、産業カーボンマネジメント(Industrial Carbon Management:ICM)戦略を発表しました。これは、EUにおけるカーボンマネジメント技術の規模拡大のための極めて重要なマイルストーンを意味するだけでなく、EUによる炭素中立への移行を支援するために必要となる気候緩和ソリューションの一部としてCCSを正当化する強力な政治的メッセージの発信でもあります。

 

欧州委員会は、CCSについて、EU産業がその事業の脱炭素化に利用できるエネルギーミックスの不可欠な一部であると考えており、同技術の擁護者となってCCS分野で主導的な役割を果たすつもりです。しかし、EU加盟国も同じビジョンを共有することが重要であることから、欧州委員会は、より多くの国が、2024年6月末締め切りの国家エネルギー・気候計画(National Energy and Climate Plans:NECPs)の最終版にCCSを含めることを望んでいます。

 

CCSを大規模に展開するためには、プロジェクトを実現させるために地域社会の人々を結集させると共に、資金的なギャップを埋め、長期的にプロジェクトのリスクを共有するための金融手段を利用できるようにしなければなりません。

 

ブレイクアウト・セッションの主要な洞察

 

イベント中、インスティテュートは、参加者と積極的に関与すると共に、提携する組織の支援を得て、欧州においてCCSが利用できる資金メカニズム、雇用市場の準備、欧州におけるCO2貯留の進展、CO2除去及び炭素除去認証枠組(Carbon Removal Certification Framework:CRCF)を含む、いくつかの問題についても取り組みました。

 

最後のセッションの一部として、ブレイクアウト・セッションでファシリテーターを務めたZEP、CATF、CCSA及び英国インペリアル・カレッジ・ロンドン(Imperial College London)の担当者は、各ブレイクアウト・グループで議論された主要点を聴衆と共有し、参加者との対話で浮かび上がって来た洞察の一部を強調しました。

 

特に、数ある中でも次のトピックに焦点を当てたディスカッションが行われました。

 

  • 地理や場所が異なれば必要となるツールも異なってくる可能性を考慮した上で、CCSプロジェクトをバンカブルにし、投資リスクを軽減するためにはどうした良いか。
  • 理論上の貯留から実際の到達可能な目標に移行すると共に、貯留能力のリスクをより良く管理するにはどうしたら良いか。
  • 炭素相殺と除去の違い、並びに、展開されるCDRのポートフォリオは場所によって異なることや規模拡大のメカニズムは世界中で一様ではないことを考慮した上で、CDRをどのように展開させるか。
  • CCSバリューチェーンを構築するために必要な労働力の採用及び訓練に関連した課題、並びにCCSの重要性や、若い労働力には必ずしも魅力的に受け止められていない同部門の雇用機会に関するコミュニケーションを改善する必要性。将来のCCSプロジェクトや展開率に関する確実性は、民間企業の将来の労働力に投資する自信を高めるために重要となる。

 

 

結論

 

専門家によるパネル・ディスカッションを通じて提示された洞察から、250名を超える欧州内外のCCS利害関係者からの情報提供や意見を含むブレイクアウト・セッションまで、2024年欧州CCSフォーラムは、単なる情報提供だけでなく、プロジェクト・デベロッパー、政策立案者、研究者等がつながり、CCSのダイアルを更に回していくためのプラットフォームを提供しました。オランダは、Porthosプロジェクトが正式に動き始めたことで、まさにそれを示していることから、フォーラムの適切な開催地でした。インスティテュートは、ロッテルダムで行われた対話を基にし、今後数か月、数年にわたって更なるCCS関連イベントや集まりを展開していくことを楽しみにしています。

 

2024年欧州CCSフォーラムを視聴する

 

本記事は、欧州・中東・アフリカ広報担当主任(Public Affairs Lead – EMEA)のDaniela Petaが主に執筆しました。

 

 

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