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GCCSIインサイト&コメンタリー:東南アジアCCSアクセラレーター(South East Asia CCS Accelerator:SEACA)
12th June 2023
トピック: Institute News
インサイト&コメンタリー
東南アジアCCSアクセラレーター(South East Asia CCS Accelerator:SEACA)
発行日:2023年5月26日
はじめに
CCSが最も必要とされているのは、削減困難部門、特にプロセス排出のある部門や、急速な経済成長を支えるために化石燃料に依存している経済活動です。従って、世界の排出集約型産業のかなりの部分を抱え、化石エネルギーへの依存が高まっている東南アジアにおけるCCSの迅速な前進は不可欠です。
この地域でもCCSプロジェクトは開発されて来ているものの、政策、規制及び貯留資源の開発におけるギャップは、FID(最終投資決定)に到達するにあたって強い逆風となっています。それに対処するため、グローバルCCSインスティテュートは、同地域におけるより幅広い気候変動緩和努力の不可欠な構成要素としてCCSへの投資を加速させるために、各国政府、多国間組織及び民間部門と協力するにあたって、東南アジアCCSアクセラレーター(South East Asia CCS Accelerator:SEACA)イニシアティブを創設しました。インスティテュートは2023年/2024年にSEACAワークショップを3回開催する予定です。
第1回SEACAワークショップ-タイ・バンコク
インスティテュートは、第1回SEACAワークショップを5月15・16日にタイ・バンコクにて実施するにあたってASEANエネルギーセンター(Centre for Energy)と提携しました。東南アジア諸国の政府、日本政府及び豪州政府の代表団、プロジェクト・デベロッパー及び他ステークホールダーが一堂に会し、同地域におけるCCS投資を加速する方法について議論しました。ワークショップは、タイ・エネルギー省副次官(Deputy Permanent Secretary, Ministry of Energy Thailand)であるVeerapat Kiatfuengfoo博士によって開会され、同省鉱物燃料局(Thai Department of Mineral Fuels)の支援を受けました。
第1回ワークショップに先立って、インスティテュートは、踏み込んだ議論を可能にするため、SEACAの3本の柱であるCCS規制、CCSを可能にするための政策及び地中貯留資源開発のそれぞれに焦点を当てた最初の報告書を3本作成しました。
本報告書は、東南アジアにおける以下の内容を提示しています。
- インスティテュートの世界経済ネットゼロ最適化(Global Economic Net Zero Optimisation:GENZO)モデルを使用して、排出量ネットゼロを達成するにあたってCCSが担うことができる役割の説明
- 投資にインセンティブを与えるための政策オプションの概説
- CCS規制の現状及びそのプロジェクト開発に対する重要性の要約
- 同地域にある堆積盆地の地中貯留容量の提示
- 潜在的CCSハブの特定
東南アジアにおけるCCSの課題と機会
ネットゼロを達成するための最低費用経路に関するインスティテュートの予備的な経済モデリング(GENZOモデル)は、2065年までに年間3ギガトン超という、東南アジアにおけるCCSの非常に重要な役割を明らかにしています。
東南アジア地域におけるCO2回収
東南アジア諸国のCO2回収に関する予備的なモデリング – IDN=インドネシア、MYS=マレーシア、
PHL=フィリピン、SGP=シンガポール、THA=タイ、VNM=ベトナム、RoSEA=東南アジアその他
排出源のクラスターが地中CO2貯留に適した堆積盆地の近くに位置するCCSネットワークの多くの機会は、一般に公表されているデータに基づいて、同地域全体で特定されました。次の図は、最も大きな可能性を持つインドネシアの潜在的なCCSネットワークを示しています。しかし、東南アジアにおいては、シンガポール等の貯留資源がない若しくは限られている国から、インドネシアやマレーシア等の大規模な貯留資源を有する国へ、貯留のためにCO2を輸送するCO2船舶輸送ネットワークが必要となることは明らかです。
インドネシアの排出クラスター及び貯留盆地
東南アジアにおける排出量ネットゼロを達成するための最低費用経路を支えるためにCCSが十分な役割を担うことを阻む技術的ないし第一次資源の制約はありません。しかし、政策及び規制環境は、排出量ネットゼロを達成するのに必要な速度と規模でCCSプロジェクト及びインフラへの投資を実現させるほど十分には整備されていません。
貯留資源の評価及び宣言を行うための条件を確立し、孔隙へのアクセスに関する所有権を発生させ、責任をどのように管理するかを定義する効率的かつ透明性のある規制は、CCSプロジェクトを可能にする極めて重要な要因です。それがなければ、CCSプロジェクトのデベロッパーは、プロジェクト開発を阻む可能性のある準拠及び商業的なリスクに晒されることになります。
民間部門の莫大な資源と能力を動かすためには、CCS投資のための投資対効果を強化する政策が必要です。CCSプロジェクトは、他の投資先と資本を競っているため、支援政策がなければ、民間部門はCCSに十分な投資を行わず、気候目標は達成されないでしょう。
CO2貯留サービスの国際取引を可能にするためには、政策及び政府間の合意が必要とされます。これは、一部の国の貯留資源が限られており、他の国・地域の孔隙へのアクセスを必要とする東南アジアにとって特に重要です。
地中貯留資源がなければCCSを行うことは出来ません。貯留資源の評価は、基本的に油層ないしガス層の評価と同様の活動を必要としますが、投資と収益の十分に確立された関係はありません。貯留資源の開発はCCSにとって極めて重要ですが、貯留資源が必要とされる時に必要な投資を推進するためには、政策支援及び協調的行動も必要とされます。
東南アジアにおけるCCS政策及び規制のスナップショット
SEACAワークショップ1議論及びアウトプット
SEACAが答えようとしているのは、東南アジアにおけるCCSへの投資を加速させるために何が出来るかという根本的な問いです。この問いは、SEACAの3本の柱(政策、規制、地中貯留開発)のそれぞれの文脈で提起され、ワークショップの参加者は可能性のある行動のリストを作成しました。
行動は、政策、規制及び経済モデリングに関する作業部会を立ち上げるというものから、CCS規制のために改正することに適している可能性のある現行規制の評価を完了させる、東南アジアの政策立案者及び規制当局が操業中のCCS施設を訪問し、そこの規制当局や独立した専門家と話し合うといった一連の関与機会を設ける、石油/ガス会社にドライ・ウェルに関する集計データを求めることを含む、国の地質調査を活用した地質データ発見イニシアティブを立ち上げる等といったものまで、様々でした。
次のステップは、この長いリストを絞り込んで作業計画案にまとめ、その実施にあたって適切な利害関係者に支援を求めることです。インスティテュートは、暫定的に2023年11月中旬にインドネシア・ジャカルタで予定されている次回のSEACAワークショップの前に、そのタスクを完了する予定です。
結論
第1回SEACAワークショップは、東南アジアにおけるCCSの可能性と共に、諸国政府及びプロジェクト・デベロッパーが、排出量ネットゼロの達成を支援するにあたって、一丸となってこの不可欠な技術をどのように普及できるかについて議論することに積極的であることを示しました。議論の明確な結論は、官民が積極的に協力することを通じてのみ成功できるということでした。戦略を講じず、政府とプロジェクト・デベロッパーの間の協力もなく、また、必要な介入を行わず、市場がCCSを実現するのを待っているだけでは、気候目標を達成するのに必要な規模での普及を成し遂げることはできません。
SEACAは、利害関係者間の議論及び協力を促進し、行動計画を作成し、必要に応じてそれらの行動の実施を調整します。第1回ワークショップは、その行動計画を定義するプロセスを開始するという目的を完全に達成しました。しかし、この先には、それらの行動の実施に対する支援を募り、それを実現させるというより大きな課題が待っています。
本稿は、グローバルCCSインスティテュート コマーシャル・ジェネラルマネージャー(General Manager, Commercial)であるAlex Zapantisが執筆しました。