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GCCSIインサイト&コメンタリー:米国におけるCO2パイプライン敷設の規模拡大-グローバルCCSインスティテュートが開催したリスニング・セッションの結論

5th June 2023

トピック: Institute News

インサイト&コメンタリー
米国におけるCO2パイプライン敷設の規模拡大-グローバルCCSインスティテュートが開催したリスニング・セッションの結論

 

発行日:2023年5月18日

原典:グローバルCCSインスティテュート

 

エグゼクティブ・サマリー

米国は、商業CCS施設及びCO2パイプラインを世界で最も多く有する国です。現在、米国では50本のCO2パイプラインが8,000km以上操業しており、毎年約7,000万トンのCO2 を輸送しています。支援的政策が導入されていること、またIRA(米国インフレ抑制法)が可決されたことから、これらの施設は今後10年間で飛躍的に増加することが見込まれています。

CO2パイプラインの許可及び敷設は、米国におけるCO2回収の普及を成功させるための重要な道筋にあります。規制は制定及び強化されていますが、CO2パイプラインの円滑で時宜にかなった敷設にとっての鍵は、コミュニティとのエンゲージメント、そしてコミュニティの教育です。CO2パイプラインの課題及び懸念点をより深く理解し、解決策を講じるための議論を円滑に進めるために、グローバルCCSインスティテュートは、2023年2月6~17日の間にリスニング・セッションを3回開催しました。リスニング・セッションには、インスティテュート・メンバー並びに米国中西部の地理的地域、テキサス州、ルイジアナ州及びカリフォルニア州で事業を行っているその他の組織が参加しました。

セッションでは、コミュニティのCO2パイプラインに関する懸念が、主に次の3つの理由から生じていることが明らかになりました。

1.「Not in my backyard(我が家の裏庭には設置しないで:NIMBY)」:コミュニティは、自分の地域にCO2パイプラインが敷設されることに気乗りしていません。これは、建設作業が引き起こす可能性が高い一時的な混乱に対する一般的なNIMBY的懸念です。従って、安全性に対する懸念とは別であるものの、その懸念によって更に深刻化しています。

2・安全性:コミュニティはCO2パイプラインの安全性について懸念していますが、その懸念点の多くは、口伝てで広がっているようであり、事実に基づいていません。また、興味深い点として、人々は、CO2パイプラインが自宅界隈を通過する可能性が高くない限り、CO2あるいはCO2パイプラインについて詳しく学ぶことに関心を抱かないように見受けられ、自宅界隈を通過する場合は、より関心を示します。ミシシッピ州サタシャ(Satartia)におけるCO2パイプラインからの放出は、しばしば話題に上がるものの、十分には理解されていません。

  1. 化石燃料の延命:NIMBY及び安全性に次いで、遠く離れた3番目の懸念点ですが、一部のグループによって、対立を引き起こすために利用されているものです。

リスニング・セッションの参加者は、コミュニティとの良好なエンゲージメントのための重要なステップとして、次の点を特定しました。

  • 適切な使者を特定及び活用し、懸念の根源及びコミュニティのニーズ等、コミュニティを完全に理解するためにデューディリジェンスを取り入れる。
  • コミュニティエンゲージメント計画の様々な手段を考案することに積極的になるよう、オペレーターを奨励する。
  • 一般の人々がCO2をしっかり理解するように、例えばCO2は無毒であるものの、空気よりは重く、窒息剤になり得ることを認めるといった、CO2の化学構造を含む教材を作成する。
  • 既存の資源を特定し、広める。
  • 教育及び意識向上を助けるために、ファクトシートを作成及び発行する。

 

はじめに

米国のCCUS及びCO2除去プロジェクトが増加する中で、何百マイルにも及ぶ新規CO2パイプラインが、将来的に許可及び敷設されなければなりません。CO2パイプラインに関する課題及び懸念点をより深く理解し、解決策を講じる議論を円滑に進めるため、グローバルCCSインスティテュートは、2023年2月6~17日の間にリスニング・セッションを3回開催しました。リスニング・セッションには、インスティテュート・メンバー並びに米国中西部の地理的地域、テキサス州、ルイジアナ州及びカリフォルニア州で事業を行っているその他の組織が参加しました。セッションの傍聴者は、パイプライン・コンサルティング会社(DNV社及びProcess Performance Improvement Consultants社(PPIC社))、米国テキサス大学(University of Texas)のガルフコースト炭素センター(Gulf Coast Carbon Center:GCCC)、米国南部諸州エネルギー委員会(Southern States Energy Board:SSEB)及びグローバルCCSインスティテュートの代表者等でした。テキサス州/ルイジアナ州セッションには、米国テキサス州鉄道委員会(Texas Railroad Commission)及び米国テキサス州総合土地事務所(Texas General Land Office:GLO)からの傍聴者も出席しました。カリフォルニア州リスニング・セッションには、米国カリフォルニア州大気資源局(California Air Resources Board:CARB)及び米国カリフォルニア州環境保護局(California Environmental Protection Agency:CalEPA)からの傍聴者が出席しました。

 

リスニング・セッションからのフィードバック

セッションの目的は次の通りでした。

  • 米国内の様々な地理的地域でCO2パイプラインを敷設することについて、運営会社及びその他の参加者がコミュニティからどのようなメッセージを受け取っているかを聞く。
  • インスティテュート及びその他のCO2回収提唱者達が、米国におけるCO2パイプライン敷設をどのように支援するのがベストなのかを見極める。

参加者には、次の質問が投げかけられました。

  • 参加企業は、地元コミュニティとどのように関与しているか?
  • CO2パイプラインが通過しているということは、CO2パイプラインが通過していない場合と比較して、常により大きなリスクを伴う。デベロッパーは、CO2パイプラインに伴うリスクの可能性/影響を最小限に抑える努力について、どのように利害関係者に伝えているのか?
  • 利害関係者の受け止め方は、CO2パイプラインと天然ガス・パイプラインで根本的な異なるのか?CO2パイプラインに特有な受け止め方を理解することは、どのような対応を講じるにあたっても助けになる可能性があると共に、他国・他地域においても役立つ可能性がある。この知識を持つことはまた、CO2パイプラインの反対派が広め、コミュニティにおいて勢いを増しているメッセージを特定することにも役立つ可能性がある。
  • コミュニティは、どのようなことをCO2パイプライン敷設に関連する主要な懸念点として見ているのか?
  • コミュニティに存在する偽情報のレベルはどの程度か?
  • 地域レベルの環境NGOsは、地元レベルでどのように関与しているか?
  • 不利な条件に置かれたコミュニティがカーボンニュートラルに移行することを助ける有益な効果によって、認識されている負の影響を相殺することは可能か?
  • CCSに関する懸念を緩和するにあたって、参加者の助言はどのようなものか?
  • コミュニティの現状と、CO2パイプラインに関する懸念を乗り越えるために向かわなければならない状態の間のギャップを埋めるためには、何が必要か?

これらの質問に対する回答は、次の4つの見出しの下でまとめられています。

  1. コミュニティエンゲージメントの現状
  2. CO2パイプライン敷設に関するコミュニティの懸念点
  3. コミュニティにおける偽情報の程度及び理由
  4. より良いエンゲージメント及び理解のための提案

 

  1. コミュニティエンゲージメントの現状

コミュニティエンゲージメントの程度は、企業によって異なります。パイプライン及び電力会社は、積極的にイニシアティブを取っているように見受けられ、また、推奨される実践として検討できるエンゲージメント戦略について議論することに前向きです。パイプライン会社は、次のような前向きな草の根レベルでのエンゲージメントを開始しました。

  • 地元及び郡の役員の前に出て対話する。
  • 郡委員との会議と同時に、部族の支援活動プログラムを設立する。
  • 会議、オープンハウス、支援活動セッションを開催すると共に、部族コミュニティと協力する。
  • 地元の緊急対応組織と関わり合い、コミュニケーションを取る。
  • 土地収用権に関する懸念点について、土地所有者と利害関係者会議を開催する。

これらのコミュニティのエンゲージメントセッションでは、次のような見識が得られました。

  • エンゲージメントの方法論は、教育に焦点を置く傾向がある。
  • 企業によるコミュニティーエンゲージメントを行うほうが、第三者のスポークスパーソンを置くよりも良い。
  • コミュニティは、安全性に関する議論を評価する。
  • コミュニティは、パイプラインの立地に敏感である。
  • 断固とした広報グループは、1名のリスニング・セッションの参加者にとって非常に大きな価値があった。

 

  1. CO2パイプライン敷設に関するコミュニティの懸念点

コミュニティのCO2パイプラインに関する主な懸念点は、安全性、土地収用権及び一般的なパイプラインの立地に関するもののようです。

  • 安全性が第一の懸念点です。米国ミシシッピ州サタシャにおけるCO2パイプラインからの放出がしばしば話題に上りますが、十分には理解されていません。
  • 「Not in my backyard」がコミュニティにおけるCO2パイプラインに対する共通する感情です。
  • パイプラインが何を輸送するのかについて懸念されています。一般的に、コミュニティは、CO2の性質を理解しておらず、CO2がどのように反応するかに懸念を抱いています。しかし、いくつかのフォーカス・グループの調査では、参加者はさらに詳しく学ぶことに関心を持っていないようでした。
  • 米国中西部では、土地収用権が重大な問題となっています。
  • 人々が個人的にどのように影響を受けるかを詳しく調査することが重要です。このようなタイプの協議は、明確な解決策を提示する可能性があります。
  • いくつかの懸念点の緩和は、徐々に進行していくものであり、時間が掛かります。

 

  1. コミュニティにおける偽情報の程度及び理由

偽情報は、口伝てで広まっているように見受けられ、個人は、友人や信用する誰かがCO2パイプラインに反対していることを聞くものの、自ら事実関係を確認しようとしたり、事実を知ろうとしたりはしません。参加者による関与の程度は、フォーカス・グループによって異なりました。

  • CO2が不燃性であることや無毒であるという特性は、殆どあるいは全く理解されていません。
  • 人々はCO2が既に日常生活の一部であることを知りません。
  • コミュニティは、どのぐらいの量のCO2が自分達の回りで動いているか、あるいは既存のインフラがあることに気付いていません。
  • 時として、コミュニティと関連のない国レベルのNGOsが、国レベルの課題を持ち込んでいます。
  • パイプラインは大抵、現状の維持であり、気候ソリューションないし持続可能性を促進していないと見られています。

 

  1. より良いエンゲージメント及び理解のための提案

ハイレベルなコミュニティエンゲージメントに関する指針及び教育資源を作成することは、極めて重要です。その他の具体的な提案は次の通りです。

  • コミュニティにCO2について理解してもらうための資源を特定ないし作成・開発する。

分かりやすい言葉で、CO2の化学構造や地球温暖化への影響を説明し、取り上げると共に、同ガスが無毒であることを強調する情報を提供する。それらの資源及び情報を、広く利用出来るようにする。

  • コミュニティはそれぞれ異なるが、パイプラインや一般的なCCS普及によるコミュニティへの利益を生かすために、コミュニティとどのように協力するかを検討する。草の根的な専門知識を特定する。北海等、世界の他の場所で得られた教訓の価値を利用する。
  • どのようなCO2インフラが既に存在するかを示すため、各州特有のファクトシートを作成することについて検討する。
  • CO2に混入している可能性のあるその他の物質の影響について調査する(例えば、パイプ腐食への影響)。それは、パイプの中に何が含まれているかを理解すること及び安全性につながる。米国エネルギー省のロードマップ作業を継続する。
  • 気候変動による地球運動等の地質学的な不具合に対処するために何が講じられているかを(米国パイプライン・有害物質安全局(PHMSA) 、パイプライン・コンサルタント会社及び学界と共に)特定する。
  • 地権交渉人が利用している方法論から学ぶ-コミュニティにおいては、一対一で取り組む。
  • API 1185 を作成するにあたって、米国石油協会(American Petroleum Institute:API)等、他の組織と協力する。
  • 投票データの利点や必要なデータのタイプを詳しく調査する。つまり、コミュニティのデューディリジェンスを実施するにあたってコミュニティの投票データは有益か、また、コミュニティを理解するためには、正確にどのような情報が必要なのかといったことである。
  • パイプラインの安全性試験情報及びビデオに、適切な前後関係や説明を加える。

 

次のステップ

CCUS技術は、2050年までに排出量ネットゼロを達成するために不可欠です。同様に、米国は、2035年までにカーボンフリー電力部門を、また2050年までにCO2排出量ネットゼロ経済をそれぞれ達成するために、相当量のCCSインフラを必要としています。従って、CO2パイプラインは、CCUSシステムにとって不可欠なのです。米国には現在、CO2パイプラインが約5,000マイル敷設されています。しかし、ネットゼロ目標を達成するためには、はるかに多くのパイプラインが必要とされています。2021年に実施された米国プリンストン大学(Princeton University)の調査が示すところによると、そのようなネットワークのパイプラインは、2050年までに合計で約66,000マイルとなる可能性があり、炭素中立を達成するための1つのシナリオは、約1,700億ドルの新規資本投資を必要としています。パイプラインの安全性及びCO2の性質に対する理解は、パイプライン敷設のための2つの極めて重要な基準です。安全性に取り組み、コミュニティがCO2について十分に知ることを助けるためには、連邦・州・地元の政府機関、部族政府、パイプライン協会、パイプライン・コンサルタント会社、大小のパイプライン・オペレーター、地元コミュニティ等、多くのグループが関与することになります。

インスティテュートは、リスニング・セッションの参加者と協力して、これら様々なグループにより良い情報を提供するため、重要な情報資料を作成することを検討しています。これらの資料には、ファクトシート、白書及びフォローアップのためのウェビナーが含まれます。

以上

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