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GCCSIインサイト&コメンタリー:CCSを通じて欧州の雇用と産業競争力を守る

31st July 2023

トピック: Institute News

欧州持続可能なエネルギー週間(European Sustainable Energy Week)から得られた見識

 

発行日:2023年7月25日

原典:グローバルCCSインスティテュート

 

グローバルCCSインスティテュートは、2023年6月の欧州持続可能なエネルギー週間中、ゼロ・エミッション・プラットフォーム(Zero Emission Platform:ZEP)との提携の下で開催されたセッション「気候中立な欧州:雇用と産業競争力を守る(Climate Neutral Europe: Safeguarding Jobs and Industrial Competitiveness)」の司会進行を行いました。欧州委員会エネルギー総局(Directorate-General for Energy of the European Commission)、ドイツ連邦経済・気候保護省(German Federal Ministry for Economics and Climate Action)、IndustriAll Europe、Equinor社及びAramis CCSプロジェクトの代表達は、ネットゼロへの公正な移行を可能にするにあたってCCSの可能性や、欧州におけるCCSの幅広い普及に必要なスキルについて有益な見識を共有しました。

 

 

欧州におけるCCSのプロジェクト及び展開

過去5年間にわたって、計画されているCCSプロジェクト数は着実に伸びており、CCSの成長率は、国々や企業がそれぞれの気候コミットメントの達成に向けて取り組むにつれて、さらに高まっていくと見込まれています。世界には現在、様々な普及段階にあるCCS施設が247か所あり、その100か所以上が欧州に位置しています1

政策面では、同技術の必要性が、直近では、EU内で2030年までに年間50メガトンのCO2圧入容量を開発することを目指す欧州委員会のネットゼロ産業法(Net-Zero Industry Act)2の中や、CO2輸送・貯留を可能にする規制枠組について議論する産業カーボン・マネジメント戦略のために現在行われているパブリック・コンサルテーション3において示されました。

欧州におけるプロジェクト開発も、この必要性を反映しています。ノルウェー国家が大部分を所有する欧州の主要エネルギー供給会社であるEquinor社は、CCS業界に26年間関与して来ており、スライプナー(Sleipner)やノーザンライツ(Northern Lights)といった大規模CCSプロジェクトに貢献しています。

同社は、EU2NSEA プロジェクトとして知られ、欧州委員会の共通利益プロジェクト(Projects of Common Interest:PCI)にも申請している、CCSバリューチェーン全体をまとめるより大規模なプロジェクトの計画を主導しています。同プロジェクトは、欧州のCO2排出源を北海の良好な貯留サイトとパイプラインで接続することを目的としており、年間3,000~4,000万トンのCO2輸送・貯留容量を見込んでいます。

TotalEnergies社、Shell社、Energie Beheer Nederland社(EBN社)及びNederlandse Gasunie社の共同イニシアティブであるAramis CCSプロジェクトもまた、削減困難産業から排出されるCO2を削減することで欧州のエネルギー移行に貢献することを目指しており、CO2輸送及び沖合貯留のための年間22メガトン規模ソリューションを提示しています。

欧州委員会は、CCSが引き続き規模を拡大し、欧州においてより商業的及び競争的になって行くにつれ、その結果としての費用節約及び普及の効率性が、この極めて重要な技術をより利用し易いものにし、それは産業排出源における排出削減に努める開発途上国も含むと指摘しています。

 

CCSの社会的及び経済的な価値:既存の雇用を維持しつつ、新しい労働市場を創出する

欧州委員会は、削減困難産業をある程度欧州内に留めておくためには、CCS普及が必要であることを明確にしました。EU内における約3万人の直接雇用と、バリューチェーン全体で35万人の従業員を擁するセメント部門には、その工程を脱炭素化させるにあたってCO2回収に替わる実行可能かつ費用効率的な手段がありません。従って、欧州経済の削減困難部門の競争力及び労働力を維持しながら、同部門にもグリーン移行の道を進ませるためには、CCSが必要なのです。

欧州38か国の肉体労働者及び非肉体労働者を代表する労働組合の連合会であるIndustriAll Europeもまた、約800万人の労働者を抱える削減困難部門の既存の雇用を維持するにあたって、CCSの重要性を強調しました。

欧州持続可能なエネルギー週間中、IndustriAll Europeは、CCSのケースにおいては、公正な移行は産業転換であることを強調しました。従って、労働者が、企業の決定ないし方針の消極的な受け手ではなく、技術的ないし経済的な変化の利益を享受する枠組を確立することが重要となります。これは、CCSインフラの建設に極めて重要となる、システムへの信頼を構築し、社会的受容を生み出すことに貢献します。

IndustriAll Europeによると、公正な移行枠組には、次のような主要な支援的要素を含める必要があります。

  • 変化の見通し
  • 契約の如何にかかわらず、欧州の各労働者が訓練を受ける権利
  • バイデン米国政権によるインフレ抑制法(Inflation Reduction Act)を利用した戦略と同様の、CCS投資に伴う社会的コンディショナリティ

パネル・メンバーはまた、既存の産業及び雇用を維持するCCSの能力に加え、同技術は、新しい類いのエンジニア、環境問題専門家及び生態学者が必要とされる労働市場の創出において果たすべき重要な役割があることも指摘しました。

CCSはまた、CO2回収・輸送・貯留及びCO2除去に結び付いた新しい事業チャンスをもたらす能力も持つことになります。欧州委員会は、CCSのバリューチェーンだけでも、2030年までに最高1,000億ユーロの価値を持ち得ることを示しています。

欧州委員会は、CCSの社会的及び経済的価値が確実に欧州全体に公平に拡がるように努めていますが、北海は、CCSインフラ開発において特に重要となって来ます。IndustriAll Europeは、公正な移行基金(Just Transition Fund)4等のCCS資金供与及び投資は、北海で利用可能な貯留サイトが及ばない地域を念頭に置いた、炭素集約型産業の転換を支援するための領土的結束側面も持つべきであるとしています。

EU加盟国は今年5、国別エネルギー・気候計画を更新することが求められていることから、それによってEU諸国の脱炭素化計画における同技術の役割が更に明確になることでしょう。

 

CCSバリューチェーンにおいて必要とされるスキル:課題と機会

Aramis CCSによると、同技術は、既に従来型及び新しい業界から、また、幅広い年齢層から、才能のある労働者を引き付けており、彼らはCCSプロジェクトに貢献することに興奮しているといいます。

エネルギー集約型産業に従事している多くの労働者は、既にCCS産業で必要とされる知識とスキルを有していることから、新しいスキルを身に付けさせることやスキルアップさせることに大きな問題はありません。むしろ、パネル・メンバーが特定した主な課題のいくつかは、次に挙げられた点の必要性に関わるものでした。

  • CCSの価値と役割をより上手く説明する方法を学ぶこと。CCSは柔軟な技術であり、幅広い部門において排出削減及びイノベーションを推進するが、それをより上手く伝える必要がある。
  • 同産業が、特に若い労働者に対して確実に魅力的であるように、想像力により富んだアプローチを採用すること。
  • CCSソリューションを既存の石油・ガス産業に組み込む方法を学ぶこと。既にエネルギー集約型産業で入手できるスキルは必要であるが、CCS産業では異なる条件やプロセスが適用されることから、発想の転換が必要とされる。

CCS産業で必要とされる新しいスキルの中で、Aramis CCSは、政策のCCSに対する意味合いや、これらのプロジェクトの環境フットプリントを理解できる労働者が必要となると指摘しました。

大規模CCSプロジェクトでは複数のパートナーシップが結ばれるため、チーム・ビルディング、協力及びコミュニケーションに関するスキルセットも不可欠となって来るでしょう。

教育は、EUにとって補充的権限の領域であるため、CCS産業に必要とされるスキルを開発するスキームの在り方は、加盟国次第です。ドイツは既に、同国が現在取り組んでいるカーボン・マネジメント戦略においてこの課題に対処することを計画しています。しかし、同技術によってもたらされる機会と制約の確固とした評価、及び信頼のおける法的枠組は、必要とされるでしょう。

 

結論:CCSは公正な移行、堅固な雇用市場において主要な役割を担う

イベント中に交わされた会話から浮かび上がって来たことは、エネルギー集約型産業及び部門の転換だけでなく、公正なエネルギー移行を確実に行うにあたっても、CCSは担うべき重要な役割があるということでした。

気候目標を達成するためにCCSを利用している炭素集約型産業が気候変動に対処するソリューションの一部であるとしっかり理解されるためには、更なる取り組みが必要であるものの、確立されたCCS市場は、雇用を守り、新しいチャンスを創出するのを助けることができます。そのような取り組みを行うことは、低炭素移行に関連した職に積極的に就こうとする求職者を誘致することになります。これは、明確で具体的な政策枠組を策定し、それらの枠組の価値及び目的を効果的に伝えることを通して、ある程度保証できるでしょう。

CCS普及が規模を拡大して行くにつれ、堅固な雇用市場を発展させる大きなチャンスがもたらされます。新しい類いのエンジニア、環境問題専門家及び生態学者だけでなく、チーム・ビルディング、協力及びコミュニケーションのスキルが、欧州におけるCCS普及を成功させる鍵となるでしょう。

我々は、エネルギー集約型産業がその排出量を削減しなければならない非常に重要な10年間に生きており、もし利用可能な技術オプションの全てを利用しなければ、それらの産業の緩和効果を最大化するチャンスを失う危険性があります。

CCSは、全ての産業排出量に解決策を提示できる特効薬ではありませんが、我々が活用できる気候緩和ツールキットの重要な構成要素の1つであり、2050年までに炭素中立を達成するために必要なものです。

 

グローバルCCSインスティテュート 全世界のCCSインテリジェントデータベース “CO2RE”(コア)データベースhttps://co2re.co/FacilityData 

欧州委員会 (2023)欧州のネットゼロテクノロジー製品製造エコシステムを強化するための措置の枠組みの確立に関する欧州議会および理事会の規制に関する提案 (ネットゼロ産業法)COM(2023) 161

欧州委員会 ‘Industry carbon management – carbon capture, utilisation and storage deployment’に関する、根拠に基づく情報提供の照会(Call for Evidence)とパブリックコメント(2023831日締切) 参照リンクhttps://ec.europa.eu/info/law/better-regulation/have-your-say/initiatives/13848-Industrial-carbon-management-carbon-capture-utilisation-and-storage-deployment_en

気候中立に向けた公正な移行基金規則(EU2021/1056

エネルギー同盟と気候行動のガバナンスに関する規則 (EU) 2018/1999の第14条に従って、国家エネルギー・気候計画(NECP)の更新計画案を2023630日までに提出する予定であった。

 

本稿は、グローバルCCSインスティテュート コミュニケーション・アドボカシーアソシエイトであるDaniela Petaが執筆しました。

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