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GCCSIインサイト&コメンタリー:米国とノルウェー、炭素税・税額控除によりカーボンマネジメント分野で世界をリード
20th September 2023
トピック: Institute News
世界がネットゼロ排出目標を達成するためには、二酸化炭素回収・貯留(CCS)の展開を2050年までに少なくとも現在の100倍にまで増加する必要があります。米国とノルウェーは、政府の政策がいかに効果的にこの実現を支援し得るかということを示しています。
2023年9月20日
米国とノルウェーは、カーボンマネジメントにおいて今や世界を牽引する存在となっています。この背景には、両国の政府が異なるカーボンプライシング(炭素への価格付け)の仕組みを導入したことによって、カーボンマネジメント分野への投資が大幅に加速したことがあります。両国のこうした状況は、2050年ネットゼロ目標の達成に向けた歩みを促すために活用できる財政的・政策的インセンティブが多岐にわたることを浮き彫りにしています。
操業中、または開発段階のCCS施設の総貯留容量は、昨年一年間で44%急増しました。しかしながら、ネットゼロの未来に本質的に寄与するためには、CCS施設の展開を2050年までに少なくとも現在の100倍にまで増加しなければなりません。
これを実現するには、世界中の官民セクターによる大規模な投資が不可欠となります。そうしたなかで、米国とノルウェーのアプローチは、対照的な事例を提供しながらも、カーボンマネジメントを推進するために等しく有効な経路を示しているといえます。
米国では、CO2の地中貯留を1970年代に開始しており、50年を経た現在、操業・建設段階のCCSプロジェクトの数が世界で最も多くなっています。一方、ノルウェーは、操業段階のスライプナー(Sleipner)・スノービット(Snohvit)プロジェクト、建設段階のロングシップ(Longship)フルスケールプロジェクトなどを柱として、1996年以来、欧州において主導的な役割を果たしてきました。
ノルウェーにおいてプロジェクトを促進する要因となったのは、1991年、ノルウェー政府が石油・ガス部門を対象に導入した世界初となる炭素税の一つでした。
一方、米国では、数十年にわたる原油増進回収(EOR)の経験の上に異なるアプローチを採用し、二酸化炭素の圧入を商業的におこなったことが1970年代におけるCCS展開の起爆剤となりました。さらに2008年には、米国政府がCO2貯留に対する税額控除(米国連邦税法のセクション番号を取って、通称「45Q」)を新規導入したことによって、CCSの経済的根拠が一層明確になりました。
さらに2022年、米国でインフレ削減法(IRA)が成立したことで、こうした促進策の効果は大幅に増幅しました。IRAのもとで45Qの税額控除が引き上げられ、恒久的に貯留されるCO2には85USドル/トン、EORまたは他産業への利用に供される場合は60USドル/トンが税額控除の基準となりました。
両国のアプローチを詳しく分析すると、世界の他の国に対する教訓、共通する事柄などが明らかになります。なかでも、CCSへの投資を阻害している要因は技術的課題ではなく、経済的に実現可能な商業的事業事例を構築することが企業の投資を引き出す、ということが浮き彫りになっています。
確固たる事業事例を構築するためには、ノルウェーのような炭素税、米国のような税額控除、排出権取引メカニズムなどの仕組みを通じて、CO2排出量の削減に価値を設定することが不可欠です。
CCSのコストがその普及を妨げているとしばしば指摘されますが、どのような技術を用いるにせよ、コストは展開とイノベーションに伴って低減していきます。R&Dを通じて技術的イノベーションを加速するとともに、リスクとコストの削減を支援するような目的に適合した事業モデルを促進するため、政府の果たすべき重要な役割があります。
輸送・貯留ネットワークは、リスクを緩和するうえでも、またCCSの全体的なコスト削減においてオペレーションにかかるコストを抑えるためにも重要な要素です。各国が、図面類の作成によって自国の貯留可能量を知ったうえで民間セクターによる適切サイトの選定を支援することが不可欠です。また政府は、連鎖的リスクを緩和するとともにCO2トン当たりの貯留コストの大幅削減を図るCCSハブの構築を可能にするため、CO2パイプラインネットワークの拡充を支援するうえでも主導的な役割を果たしていく必要があります。
米国・ノルウェー政府は、こうしたことをいかにして効果的におこなうことができるかについても実証しています。
例えば、米国政府ではファンディングの提供、R&D投資への支援、貯留資源開発の促進など、カーボンマネジメント技術を支援するための包括的な政策の枠組みを導入しています。
2021年には米国の超党派によるインフラ投資・雇用法が成立し、次世代CO2回収技術、大気からCO2を直接回収するDAC(Direct Air Capture:直接空気回収)技術、統合CCS実証試験、産業排出削減実証プロジェクト、CO2輸送・貯留インフラなどへの投資に120億ドル以上が割り当てられました。
米国政府はまた、5,000万トン以上のCO2を貯留する可能性のある地中貯留サイトの開発を目指すカーボンセーフ(Carbon Storage Assurance Facility Enterprise:CarbonSAFE)イニシアチブを通じて、CO2地中貯留資源の開発の促進をリードしています。選定されたプロジェクトは、プロジェクトスクリーニング、サイト選定・特性把握のほか、ベースライン監視・検証・算定/評価手順などによって得られる知見を改善していくことを目指します。
さらに、米国は官民共同で大規模な試験機関であるNational Carbon Capture Center (NCCC)を設立し、新規プロバイダに対して技術を試験する機会を提供しています。
ノルウェーでも同様に、研究プログラム、直接助成金、産業界との共同出資など、政府によるファイナンス支援が主軸となって1996年のスライプナープロジェクトの開始以降もCCSの開発を継続的に進めてきました。同国は2012年、世界最大規模のCO2回収のための試験機関であるTechnology Centre of Mongstad(TCM)を発足しました。
2012年、CCS分野における世界の進展を加速することを支援するため、ノルウェーと米国が共同でInternational Test Centre Network(ITCN)を設立しました。このグローバル連合では、国内のプログラムを活用すること、専門的な知見の共有によって世界全体の利益に資することなどを目的に掲げています。
2020年秋のノルウェー議会では、LongshipフルスケールCCSバリューチェーンのプロジェクト開発をさらに進めるため、ファンディングのモデルと条件が可決され、ノルウェーの産業界において気候技術への最大規模の投資額となりました。Longshipは、操業開始すれば欧州における世界初の国境を超えたオープンソースCO2輸送・貯留インフラネットワークとなり、欧州大陸全域の企業に対して自社で排出するCO2を安全かつ恒久的に地中に貯留する機会を提供します。政府は、同プロジェクトの総コスト270億NOKのうち、180億NOKを投資します。
世界におけるネットゼロ排出目標の実現に向けて、2050年までに少なくとも100倍の増加を見込んでCCSを展開していくためには、複数諸国の官民セクターによる大規模な投資、新規の金銭的・政策的インセンティブなどが極めて重要となります。
政府の政策優先事項としては、CO2地中貯留の長期的価値の認識、CCSネットワークの構築の促進、CCS展開への投資条件の策定などが挙げられます。
米国とノルウェーの事例研究からは、政府による効果的な政策がいかにしてカーボンマネジメントへの投資につながり得るかということが示されています。世界の気候目標を達成するためには、より多くの国が米国・ノルウェーに続き、気候変動の緩和とネットゼロ排出の実現を支援するために欠かすことのできない手段であるCCSの展開を協働的に加速していくことが不可欠です。
本文は、グローバルCCSインスティテュート CEO、Jarad Danielsと、産業科学技術研究所(SINTEF)サステナビリティのエグゼクティブバイスプレジデント、Nils Rokkeの両氏によって執筆されたものです。
出典:2023年9月8日付けEURACTIV 記事を読む