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インサイト&コメンタリー:サウジアラビア、野心的なCCS目標達成に向けた取り組みを強化
22nd August 2024
トピック: Institute News
発行日:2024年8月15日
サウジアラビア王国は最近、同国のCCSプロジェクト及びイニシアティブを前進させるために重要な取り組みを行っており、温室効果ガス排出量削減の世界的な取り組みを主導するという揺るぎないコミットメントを示しています。サウジアラビアは、同国の野心的な2060年ネットゼロ目標に沿って、2035年までに年間4,400万トン(44Mtpa)のCO2回収・利用・貯留(CCUS)能力を達成するという目標を設定しており、2035年までのCCS目標を11Mtpaから14Mtpaまで引き上げた国有石油会社のSaudi Aramco社によって支えられています。[i]
同国におけるCCSを推進する旗艦プロジェクトの1つは、ジュバイル(Jubail)CCUSハブです。中東・アフリカ地域で最大のこのプロジェクトは、2027年までに最大9MtpaのCO2貯留を目指しています。Wood社が完了した詳細な基本設計によって支えられた同プロジェクトの初期段階には、未開発地における脱水・圧縮施設や、液相ないし超臨界相のCO2を輸送するための200キロメートルに及ぶ包括的パイプライン・ネットワークの開発が含まれます。[ii]
サウジアラビアは、ジュバイル及びヤンブー(Yanbu)産業クラスターを地域CCSハブに変身させることを計画しています。これらのクラスターは、ガス処理、発電、石油化学、セメント、鉄鋼製造及び製油所での水素製造等、排出削減が困難な産業を数多く抱えています。加えて、これらのクラスターは、老朽化したガス貯留層で5.2Gt、ルブアルハリ(Rub’al-Khali)堆積盆地で40~318Gtという大規模CO2貯留層の上に位置しています。[iii]
産業CCSハブは、1Mtpa未満の小規模で二地点間のプロジェクトから、より影響力と規模が大きい10~50Mtpaのプロジェクトへの移行を可能にします。また、共有の輸送及び貯留インフラの利用を通じて費用及びリスクの削減も促進し、より小規模な排出源からの回収を可能にし、貯留の商業的リスクを削減し、規模の経済を生み出し、クリーン水素バレーと融合し、地域CCUSクラスターとつながる機会を提供します。
サウジアラビアのエネルギー省(Ministry of Energy)は、グローバルCCSインスティテュートとの協力の下、同国におけるCCUSハブの開発にインセンティブを与え、開発を促進する革新的なビジネス・モデルを評価しており、特に責任を分け、操業効率を強化することでリスクを緩和することに焦点を当てています。
サウジアラビアの研究開発における画期的成果によってCO2回収及びCO2貯留技術が前進
同国は、サウジアラビア・アブドラ王立科学技術大学(King Abdullah University of Science and Technology:KAUST)が主導する協力を通じて、CO2回収技術及びCO2地中貯留技術において先駆的な進歩を遂げました。KAUSTと米国ユタ州に拠点を置くChart Industries 社の一部であるSustainable Energy Solutions社のパートナーシップは、革新的な極低温CO2回収(CCC)技術の、CO2回収速度1日1トン(ショートトン)というパイロット規模での開発及び実証につながりました。200時間の試験は、1日1トン規模で90%以上の回収効率を示しました。[iv]
KAUSTが主導するその他のパートナーシップは、玄武岩層へのCO2圧入の革新的な方法を可能にし、CO2はそこで鉱物化し、恒久的に安定した炭酸塩岩へと変化します。[v]
サウジアラビア初の直接空気回収装置は、ダーラン(Dhahran)にてSaudi Aramco社が開発中であり、2024年後半に完成する予定です。この施設は、CO2排出量を効果的に回収及び利用する同国の能力を強化するために極めて重要な役割を果たすことになります。[vi]
サウジのクリーン水素の機運は着実に高まっている
2021年、Abdulaziz bin Salman Al-Saudサウジアラビア・エネルギー大臣は、同国が世界トップのクリーン水素供給国になることを目指し、2030年までに4Mtpa を目標とすることを発表しました。加えて、Saudi Aramco社は、クリーン・アンモニアを2035年までに11Mtpa生産する目標を発表しましたが、それにはクリーン水素を1.94Mtpa生産しなければなりません。より最近では、Saudi Aramco社がAir Products Qudra社の水素産業ガス事業の50%を取得し、国内及び地域の顧客にサービスを提供する、東部州におけるクリーン水素ネットワークの開発を目指しています。[vii] サウジアラビアによるクリーン水素製造への投資は、最大15年間補助金を提供することでグレー水素とクリーン水素の価格差に対処する計画である、日本の差金決済取引(CfD)補助金制度を受けて増加する可能性が高いでしょう。サウジアラビアは、富士石油株式会社、SABIC Agri-nutrients社、Aramco社及び株式会社商船三井との合弁事業を通じて、サウジアラビアから日本へクリーン・アンモニアを初出荷しており、既に日本への輸出の可能性を実証しています。[viii]
サウジアラビアのクリーン水素戦略及び目標は、最近Routledge社から出版された本『クリーン水素経済とサウジアラビア(The Clean Hydrogen Economy and Saudi Arabia)』の中で特に強調されています。同書は、排出削減に焦点を当てた、色に関係ない水素戦略を提唱し、CCSのクリーン水素製造における不可欠な役割と、同国の循環型炭素経済(Circular Carbon Economy)アプローチの横断的構成要素としての役割を強調しています(図1)。
図1:サウジアラビアのCCEアプローチ[ix]
サウジアラビアはカーボンマネジメントの世界的な気候イニシアティブを主導している
国際的にも、サウジアラビアはCCS技術の世界展開を加速させることを目指したイニシアティブに積極的に関与しています。特に同国は、CO2除去(CDR)のモニタリング・報告・検証(MRV)のための革新的なソリューションに焦点を当てた、ミッション・イノベーション(Mission Innovation)が主導するSMART CDRコンペティションに参加しています。[x] サウジアラビアはまた、実行可能なCO2緩和オプションとしてCCUS展開の加速を目指す、クリーンエネルギー大臣会合CCUSイニシアティブ(Clean Energy Ministerial CCUS Initiative)の共同主導国の1つでもあります。CO2回収・除去・利用・貯留技術の展開を加速させるために世界各国の共同努力と行動を呼び掛けるカーボンマネジメント・チャレンジ(Carbon Management Challenge)の参加国として、サウジアラビアは、カーボンマネジメント技術とインフラの展開意欲を高めると共に、その速度を上げ、規模を拡大するために他の国々と協力しています。
加えて、同国の経済企画省(Ministry of Economy and Planning)及びエネルギー省は、UpLink(アップリンク)との協力の下、循環型炭素経済を加速させる革新的なソリューションを求める、CO2回収・利用チャレンジ(Carbon Capture and Utilization Challenge)の立ち上げを発表しました。同チャレンジは、2024年7月10日に開催された、国連の持続可能な開発目標に関するハイレベル政治フォーラム(United Nations High-Level Political Forum on Sustainable Development:HLPF)の「SDG 13及びその他のSDGsとの相互関連-気候行動(SDG 13 and Interlinkages with Other SDGs – Climate Action」と題されたメインセッションにて立ち上げられました。[xi]
総じて、これらの世界的なイニシアティブへのサウジアラビアの参加は、循環型炭素経済枠組を前進させる上でのサウジアラビアの極めて重要な役割と、気候目標を達成するためにカーボンマネジメント技術の展開を前進させるための同国のコミットメントを明確に示しています。
このインサイト記事は、インスティテュート中東・アフリカ地域事業展開リード(MEA Business Development Lead)のMaryem El Farsaouiが主導して執筆しました。